―White Memory―


その日、久しぶりに一人暮らしをしていたアパートへと帰った。


大したケガじゃなかったあたしは簡単な検査、治療を受け10日ばかりで退院したけれど

それからはほとんど灯吾につきっきり。


実家の方が病院に近かったせいか寝泊まりも実家で済ませていたし、ここへ帰るのは実質3週間振りだ。



力の抜けた足どりで、ベッドへ腰を下ろす。


疲れきった体とは裏腹に、目につくのは飾られた笑い合う二人の写真。

見渡せば、この部屋のあちらこちらに灯吾の面影が見え隠れしていた。



彼のスエット、歯ブラシ、彼の好きな映画のDVD。


居るはずなんてないのに、彼はどこかで隠れてて、あたしを驚かせようとしてるんじゃないか、と

ありもしない錯覚に陥る。



…でもこれは現実だ。


灯吾はここに居ない。
彼は、全てを忘れてしまったんだ。


この部屋で、お気に入りのDVDを観たことも

二人で一緒に鍋を囲んだことも

朝までベッドで語り明かしたことも、全て。




「………っ!」



記憶を、捨てたんだ。





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