―White Memory―


この雪に溶けて
全てを忘れてしまえたら

どんなに楽になるだろう。


あたしという存在を消してしまえたら、どんなに。




「…何かあった?」

「え…?」

「クス、何か元気ないように見えるから。」


当時、あたしは灯吾から“クス”と呼ばれていた。

もちろん灯吾だけじゃなく、みんなからも。


楠原、のクス。




「……ねぇ、堀口くん。」

「ん?」

「恋ってさ、寂しいよね。」



酔えないと言ったけれど、あの時のあたしはやっぱり酔っていたのかもしれない。

普段なら決してあんなこと言ったりしないのに、気が付けば胸の突っかえを吐き出していた。


当時、あたしには
高校から付き合ってる彼が居て。

あたしは大学、そして彼は美容の専門学校へ進み、新たな生活を始めた。



―――でも。




「ほら、よく言うじゃん。

“環境が変わると人も変わる”って。」



そう、彼は変わってしまった。


あたしよりも大切なモノを
あたしよりも優先したいモノを

見つけてしまったんだ。





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