心の距離
「かもな。瞬が惚れてるなら身を引こうと思ったけど、違うなら動く。それだけだよ。腹減ったから行こうぜ」

小さく笑いながら、いつもの口調に戻ったヒデ。

『身を引こうと思ったけど、違うなら動く』

自分の本音を隠したまま、ヒデの本音を聞いてしまった事実は、激しい頭痛と目眩を招いた。

帰宅した後、食事を取っていても頭痛は治まらず、ため息を誤魔化すように、彼女の作った肉じゃがを口に運んだ。

「瞬?どうしたの?」

眉間にシワを寄せ、心配そうに聞いてくる母親。

「別に…朝から頭が痛いだけ」

「瞬が頭痛なんて珍しいわねぇ…。前に、ことみちゃんがくれた薬が残ってたような…」

ブツブツ言いながら鞄を漁る母親。

「たぶん二日酔いだし、寝れば治るから良いよ」

ため息混じりに告げ、食事を取り終えた後、浴室へ向かった。

シャワーを浴びていても、ヒデの言葉が頭から離れない…

…ヒデには話しても良くないか?…

そうは思っても、今更話すのは気が引ける。

彼女の隣に座るヒデを思い出すと、頭痛は更に酷くなっていった。

…妬き過ぎて頭が痛いのかも…

はじめて味わう苦痛を抱えたまま、浴室を後にし、ベッドに潜り込んだ。
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