心の距離
「…何も言わないで行くつもりか?」

春樹さんの刺すような視線と声に、黙ったままうつむき、小さく告げた。

「…所詮、夢だったんですよ。…起きる時間が来たんです」

「夢にしたいのか?」

「いえ…離れるのが怖いだけです。…洋介、今の話、ヒデにも…誰にも言うなよ?」

「…わかってます。でも…近いんだから、携帯の番号聞いて会えば良いんじゃないですか?車で2時間ちょっとだし…」

「ちゃんと付き合ってる訳じゃないし、携帯の番号知らないし…社長の前で話しちゃったしな。規則違反をした罰は受けます」

素直に自分の気持ちをスラスラ言える自分自身に、違和感すら覚えた。

ついさっきまで、あんなにバレないようにと言っていたのに、全てを話てしまった自分。

何故か胸のつっかえが無くなり、清々しい気分にすら思える…

後悔する気持ちは無く、凄くスッキリしている自分が居た。

…神様は見てるんだな。ルール違反した罰か…

呆然としている僕を尻目に、新しい職場の従業員規約を見せる社長。

新しい従業員規約の中に『社内恋愛禁止』の文字は無かった。

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