たとえばそれが始まりだったとして
「桐原が好きなんだ?」
ニヤリと笑ってそう言えば、彼女は顔を真っ赤にして狼狽した。
「なっ、えっ、す、好きってそんなっ」
「今更だよね。俺にキスされそうになった時に思わず名前呼んじゃってたもんね。桐原君って。あーなんだ、じゃあ小春ちゃん両思いなんだー」
わざと羞恥を煽るようなことを言えば、彼女はさらに顔を赤くして期待通りの反応をしてくれる。ヤバい、楽しいかも。
「そういえば小春ちゃんあの時桐原に抱きついてたよね。後ろからギュッて。その後桐原にセーターなんか着せられちゃって、俺がいる前でよくイチャイチャ出来たよね」
彼女の顔は火が出るんじゃないかってくらい赤かった。唇を噛み締めて涙目で俺を睨んでいる。ちょっといじめすぎたかな。しょうがない、と彼女を見て内心苦笑しながら、まぁ良かったね頑張って、そう口にしようとした正にその時。
「眞鍋君だって桐原君大好きじゃん」
何やら不吉な台詞が彼女の口から飛び出した。
「……え?」
口元が引き吊る。そんな俺を、彼女は煮えたぎるような目で睨んでくる。
「ひとのこととやかく言えないよね」
「え、小春ちゃん?」
そして羞恥の臨界点を突破した彼女の猛反撃が始まった。
「眞鍋君はさ、彼女にふられた時悲しみよりも悔しさのほうが大きかったんじゃない? 否定出来ないよね。だって、桐原君にふられて傷ついてる彼女を放置して桐原君にかまけてたんだもん。別れたって彼女が好きなら慰めるなり傍にいてあげるなりすれば良かったのに」
「……」
「桐原君が嫌いみたいなこと言ってたけどさ、それだって愛情の裏返しで本当は桐原君が羨ましかったんじゃないの? 惹かれたんでしょ桐原君に? 仲良くなりたいんでしょ? 意地張ってないで認めれば?」
「……」
「あとさ、自分の欲求のためとはいえ好きでもない子に好きとか、嘘でも言わない方がいいよ。相手の子が可哀想。あたしは嘘だってわかったから平気だけど。なんかそれって自虐的だし。もう少し、自分を大切にしてあげなよ」
「……」
「……眞鍋君?」