たとえばそれが始まりだったとして
先ほどから言われっぱなしで何も言い返さない俺を訝しんで彼女が呼び掛けてくるのが聞こえたけど、俺はそれどころじゃない。
「あのー、眞鍋君? お、怒った?」
さっきまでの静かに怒りを込めた淡々とした口調とは打って変わって、腫れ物に触るように訊ねてきた。
あー、なんかもう、限界かも。
「っははははっ!」
可笑しすぎる。
何がって、自分がだよ。
いっそ清々しいくらいの敗北感だった。
「ちょっ、眞鍋君、なんで!? ここは絶対に笑うところじゃなかった! むしろシリアスな場面だったはず! というか最近あたし笑われっぱなしな気がする……」
だって、ねえ。これは笑わずにはいられないでしょ。
金曜日も思ったことだけど、桐原じゃなくて彼女こそが大本命のダークホースだ。
「……大丈夫? 眞鍋君おかしくなっちゃった?」
おかしくなんてなってない。俺は至って正常だ。
それからたっぷり五分は笑っただろう。笑いが落ち着くと、彼女はどことなくぐったりしているように見えた。
「ねえ、小春ちゃん」
「……なに?」
「これからはさ、友達として仲良くしてくれないかな?」
金曜で全て終わりにして、それっきりにする予定だったけど気が変わった。
もう少し、この子と関わってみたい。恋慕とかじゃなく、純粋に人として。彼女がどんな風に世界を見ているのか興味が沸いた。
だから厚かましいとは思いつつ、そんなことを言ってみた。すると結構勇気の要った俺の願望に彼女は、
「うん、いいよ。あたしも言うつもりだったし。またメールしようね」
裏のない笑顔でそう応えたのだった。
その後俺たちは予鈴が鳴るまで誰もいない踊り場で話していた。俺と別れた彼女の付き合っていた頃の話を聞きたいと好奇心丸出しで言ってくる彼女に笑顔で話してあげたり、その彼女とは部活が同じだから今も普通に友達をしていると話せば、彼女は嬉しそうに微笑んだ。