僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「抱きたいと思わないの? 好きなんだろ?」
「……アンタ、何言ってんの?」
そうだよ。それじゃあまるで、凪が他の男の人に抱かれてもいいって言ってるように聞こえる。
サヤさんだって、凪が好きなんでしょ?
固まってるあたしと祠稀を交互に見るサヤさんは、「ああ」と思い出したように声をあげ、にこりと微笑む。
「知らなかった? 凪、押し倒されれば誰にでも股開くって」
「――っ!」
「祠稀っ!!」
ガタンと席を立った祠稀を、慌てて止める。振り下ろされなかった拳にすらサヤさんは目もくれず、注意しにこようとした店員さんに「すみません」と謝る。
店員さんなんかより、凪に謝ってほしい。
凪を、なんだと思ってるの?
「祠稀……落ち着いて」
「そうだよ、落ち着きな」
「あなたは黙ってて!」
わざとらしく肩を竦めるサヤさんに、祠稀はギリッと奥歯を噛み締めると、あたしが掴んだ腕を振り払って座る。それに続いたけれど、もうサヤさんはまともに話せる相手じゃないことは理解した。
「……ブン殴りてぇ」
「……何を勘違いしてるか知らないけど、君たちが知ってる凪なんて、一部でしかない。ついでに言うと、俺よりも凪のほうが変態だし」
睨む祠稀に竦みもせず、サヤさんは笑顔を崩さない。
「欲しがりなんだ、凪。足りないって、何度も、気を失うまで求めてくる」
「ベッド事情なんて聞いてねぇんだよ」
「そう? 聞きたいかと思った」
サヤさんはそう笑って珈琲を飲み干すと、腕時計で時間を確認する。
――もう、話す必要はない。