僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「このままで済むと思うなよ」
祠稀の言葉に顔を上げたサヤさんは、眩しいものでも見るように瞳を細めると、目を伏せた。
「楽しみにしてるよ」
「帰んぞ有須」
言いながら立ち上がった祠稀に続くと、祠稀はサヤさんに振り返る。
「あと……」
「っ! 祠…っ!」
ガシャンッ!と、止める暇もなくサヤさんに投げられた珈琲カップが、音を立てて床で割れる。
初めて崩れたサヤさんの驚いた顔に、祠稀は嘲笑するわけでもなく、ただ睨みつけていた。
「お前みたいな奴に、凪はもったいねぇ」
「……祠稀」
「お、お客様! 店内での揉めことは困ります!」
「うっせー! 終わったわ! 請求全部あの変態にしとけ!」
そう言ってさっさと店を出ていく祠稀について行けないあたしは、サヤさんに振り返る。
「カップは投げる物じゃないって言っといてよ」
サヤさんは余裕な表情ではなく、困った感じで微笑んだ。
「あと……じゃあ、君が凪を幸せにできるの?って」
できるって言うんだろうね。と自ら答えを出したサヤさんは口元だけで笑う。
「凪の気持ちなんか、誰にも理解できないよ。……彗以外は、ね」
ドクンッと脈が波打ち、サヤさんから視線を逸らす。
どうして今さら寂しそうな笑顔を見せるのか、どうしてそこで彗の名前を出すのか。
自分の速くなる鼓動が、苦しい、と胸を締め付ける。
あたしは耐えきれず、小さな声で「失礼します」と頭を下げ、再びサヤさんと目を合わすことなく祠稀を追いかけた。
……言われなくたって、凪を理解できるのは彗だけなんじゃないかと、何度も思ったことがある。
それでも、やっぱりあたしは……あたしたちは……。