僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「……起きてたんだ」
部屋へ入ると、彗がベッドに腰かけて微笑みを向けてくる。
「起きるでしょ、ふつう」
「だね」
鍵を閉めたことに、特に意味はなかった。入ることは許されない、踏み入ってはいけないと、ふたりに思わせたかったのかもしれない。
「……ねぇ」
彗の前に立ち柔らかい髪に触れると、腰に手を回されて抱き締められた。
「ん?」と言う彗の声は、あたしの腹部に顔を埋めているせいかくぐもって聞こえる。
「殺したいって、何?」
彗はぎゅっ強く抱き締めてきたかと思うと、頭を横向きにさせる。
お腹のあたりが、くすぐったい。
「……そうすれば、凪は幸せかなぁって」
遮るものがないと、声はこんなにもハッキリと聞こえるのか。
……そんなこと、本気で思ってないくせに。
「幸せじゃないよ。彗にそんなことしてほしくない」
「じゃあ凪もダメ」
擦り寄ってくる彗の頭を撫でる手を、止めた。
「しないよ。大丈夫」
「ならいい……」
サラサラの髪をもう一度撫でると、あたしの腰に回る彗の腕の力がいっそう強くなる。
……ずっと、思ってたのかな。あたしが、緑夏ちゃんを殺すなんてこと。
殺したいほど憎いのは確かだけど、そんなことしたらサヤが悲しむでしょう?
きっとそんなのは建前で、単純に人を殺めることなど恐ろしくてできないだけだ。
もし緑夏ちゃんが死んだら、とか。もしサヤと緑夏ちゃんが別れたら、とか。あたしは“もし”にすがるほど夢見がちではなくなった。
心の底から消えろ、別れろと思うだけ。
――何もかもが中途半端。
殺したいほど憎んでも、この手にかけることができない。どれだけ愛していても、口に出すことができない。
緑夏ちゃんとサヤを心から祝福できるように家を出たのに、あたしは何も、何ひとつ変わっていない。
挙句の果てに祠稀と有須にバレて、彗にまで殺したいなんて言わせて。
あたしはいったい、なんのためにここにいるんだろう。