僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


持っていた鞄を手から離し、数歩進んでテーブルの上に置かれている便箋に視線を落とす。


『あとそうだ。彗、』


遊志先輩と遊びに行く前、凪が俺の耳元で囁いた言葉と笑顔を思い出して、唇を噛んだ。


『彗は、祠稀と有須と仲良くしなきゃダメだからね』


――するよ。するから。


……ああ、なんで。今さら願っても、もう遅いのに。


力をなくした手から滑り落ちたメモ用紙は、床に散らばる1万円札の上に音もなく重なる。


茶褐色の中にただひとつ、馴染まない白。それがぼやけて、涙が落ちる前に凪の部屋に向かった。


祠稀が開けっ放しにしたせいで中が丸見えだ。


視界に入る物が足を重くするのに、遅くもなく早くもなく、引き寄せられるように凪の部屋の前で止まった。



――何も変わってない。長く使われた机も椅子もテーブルもカーテンもベッドも、そのままなのに。


颯輔さんと一緒に過ごしていた頃から使われていたものが、置き去りにされたことがどういうことかなんて。


考える前に“置いていったんだ”という現実が胸に突き刺さった。


「……凪」


名前を呼べば、口に出せば。いつも笑顔だった。いつも泣いてた。いつだって俺を――…。


微かに震える手で口元を覆って、凪の部屋から視線を逸らす。その先に見えた脚を上へと追いかけると、祠稀が俺を見ていた。



音もなく流れた俺の涙の意味なんて、祠稀には分からない。



「……電話、したいんだっけ」

「……」

「いいよ……携帯なら俺の鞄の中に入ってるから、勝手に使って」


頭が痛い。

締め付けられてるような痛みを絶え間なく感じて、吐き気まで催す。


「彗がかけろ」


こめかみを抑えていると、いつの間にか取り出した俺の携帯を祠稀が差し出していた。


「……電話したいのは祠稀でしょ」

「お前がかけろって言ってんだよ」

「嫌だよ」


拒否すると、祠稀も俺も互いのことを睨む。僅かな沈黙のあと、祠稀は苛立ちの溜め息を吐いた。
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