僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「凪がいなくなったんだよ」
沈黙の間に熱いココアを飲むと、微かな息使いが耳に届く。
『……それはそれは、なんでまた。ずいぶん大きな喧嘩したんだね』
「うるせーな。遊志にどっか様子おかしいとこなかったか聞け」
やれやれとでも言いたげな溜め息をつかれ、声が遠のいた。
遊志の耳障りな声が聞こえるかと思ったのに、案外ふたりは冷静に話しているみたいで、携帯を持ち直す音のあと、大雅の明瞭な声が戻ってきた。
『もしもし? 遊んでる時はいつも通りだったらしいよ。別れる時も別にふつうだったって』
「……あっそう」
『でも、凪ちゃん今日の朝、携帯忘れて家戻ったの知ってる?』
「携帯忘れた? ……ああ、だから遅刻……」
目を見開いた俺と彗の姿は、大雅には見えない。
『遊志もついて行って玄関で待ってたんだけど、携帯取って戻ってきた凪ちゃん、中くらいのバッグ持ってきたらしいよ』
……最悪。
『で、何それって聞いたら実家に送る荷物って言って、学校行く前に駅のコインロッカーに預けたってさ』
「ちげーよ!」
『自分の荷物だろうね。服とかいろいろ』
「気付けよマジで……」
『無理でしょ。俺だって何送るのかは聞くけど、いつも通りの凪ちゃんだったら家出るなんて気付かないよ』
「……ちょっと待て。彗、凪の奴朝に――…」
……最悪、本気で最悪だ。計画的に出てったんじゃねぇか。
遊志と遊んで別れた後、その荷物を持ってどっか行ったんだ。
学校帰りの俺か彗と会わないように。朝の内に、もしかしたら昨日かもっと前から金と手紙を用意して。
「……そう。分かった」
大雅の話を伝えると、彗は頭を垂れて呟く。
……遊志と別れてから準備してくれてたほうが、まだマシだった。
もしかしたら新幹線か飛行機に乗って、俺らの知らない土地に行くかもしれない。
2時間……こうしてる今も時間は進んで、俺たちから凪を遠ざける。