僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
―――…
チカと凪はたいしたメールはしてなくて、ふたりで遊ぶ予定日もあやふやなまま、凪で返信が止まったらしい。
早坂も早坂で仕事中なのか繋がらず、留守電にメッセージを残しておいた。凪のことで話があるから折り返し電話しろ、と。
「早坂と凪の関係って、颯輔さん知らないんだよな?」
「……うん。早坂先生がこっちにいるのも知らないと思う」
「でも」と続けない理由は、答えが見えないからだと思った。
カウンセラーと患者の域を超えていることも、一時切れたその関係がまた始まってることも、颯輔さんは知らない。
だけど薄々気付いてるかもしれない。
そうだとして、言及しないのは凪の想いに気付いているから。
サヤという、自分以外の誰かへ居場所を見つけてほしいから。颯輔さんがそんな風に思ってることも凪は気付いていて、娘で在ろうとしてる。
お互いが思っていることは勘づいてるのに、それに触れられない。触れてはいけないなんて。
「……複雑すぎ」
呟いた俺に何を言うでもなく、彗は黙って視線をぶつけてきた。
1本1本の糸がぐちゃぐちゃに絡まってる感じだ。その状況は見えているのに、どれから解いていけばいいのか迷う。
……凪も、そうなんだろう。ずっとずっと、もう何年も。
「……あ?」
スンッと鼻を啜る音に彗を見ると、色素の薄い瞳に涙が浮かんでいた。
「いやいやいや……どうした、おい」
俯いて緩く首を振る彗は、歯を食い縛ってるようにも見えた。
なん……なんだよいきなり。やっぱり凪が電話に出なかったからか? 俺が複雑すぎとか言ったからか?
何にしても、彗の今の感情を考えたって寂しいとかつらいとか、そんなものしか思い浮かばない。
「……違う……ごめん……俺じゃなくて……」
「は? いや、別に謝んなくていいけど……」
俺じゃなくてって?
困惑している俺に彗は顔を上げて、潤んだ瞳を意味ありげにたゆたわせた。