僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「秘密がある……まだ、凪にはひとつ……」
ズシンッと、体全部に得体の知れない何かが圧しかかる。唐突な重力を感じればすぐ、ざわつく胸が嫌な汗までかかせた。
「……は?」
この期に及んで、まだある?
なんで今になってそんなこと……あの日話してくれたことが、全てじゃない?
「なんだよそれ……今さら、他に何があるっつーんだ」
「……言えない」
「はあ!?」
「ダメなんだ!」
もう怒りとか惑いよりも、ただ驚く。今さら秘密があると打ち明けといて、言えないってなんだ。ダメってなんだ。
「……ごめん……凪が隠してたことは、他のことならなんでも話す……でも、ひとつだけはダメなんだ」
じゃあなんで言うんだよ……。
秘密があります、でも内容は言えませんなんて、蛇の生殺し状態じゃねぇか。
「それって颯輔さんに関係あんの?」
ゆらゆらと、彗の瞳に浮かぶ涙は俺には理解できない。だって俺は、その秘密とやらを知らないんだから。
「……直接的には関係ないけど……ごめん、うまく言えないんだ……正直、よく分かってなくて」
「……分かってないから、話せないわけ?」
「違う……意味は分かってるんだ……気持ちが、追い付かない……」
その秘密を抱えてる凪の気持ちが、彗には想像つかないってことか?
……彗が?
「知っててほしかった……まだ凪には、抱えてるものがあるって」
「知ったところで内容が分かんないんじゃ……」
意味ないだろ。
そう言う前に感受した。
静かにゆっくりと、ああそういうことかって。
「凪が自分の口で言わなきゃいけないんだ」
「……」
……そうだな。きっとそうしなきゃ、何も変わらない。
俺らも、凪自身も、凪を取り巻く暗闇も。ひとつくらい、凪が自分の口で言うことで何かが少しでも変わるなら、それがいい。
「……待ってやるよ」
気は長くないけど。そんな意味を込めて口の端を上げると、彗はやっと微笑んだ。
諦めや寂しさを含んだ笑みは静かに融けて、柔く温かいものだけ残した、彗らしい笑顔だった。