僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


――タイミングが悪いんだか、いいんだか。


余情に浸る暇もなく鳴り響いた俺の携帯。手に取ると、着信は早坂からだった。


「……どーも先生。お久しぶり」

『偉そうな留守電ありがとう、祠稀くん?』


それでも折り返してくんだから、凪への想いは完璧だよな。


「仕事中にすみませんね」

『もう終わったよ。それで? 凪のことで話って何? また何か聞きたいことでも』

「いなくなった」


遮るように告げると、電話の向こうで固まる早坂が頭に浮かぶ。


ネクタイを緩めていた手とか、止めてそう。


「部屋はそのまんまで、置き手紙と金だけ残して家出てったんだよ。調べたけど、2時間以上前に。さすがにアンタも知らなかっただろ?」

『……出てった? なんで、どこに……』

「知らねぇから電話したんだよ。つか仕事終わったんならこっち来てくんね? 聞きたいことなんか山ほどあんだよ」

『……』


動揺。

今の早坂にはその言葉がピッタリだと思った。俺も、彗もそうだったから。


「……凪が好きなら、大事なら余計なことしないで家に来い。話はそっからだよ。意味分かるよな?」


ひとりで探せるわけがない。凪にも電話するな。颯輔さんに連絡なんてもってのほか。


凪のことは早坂もよく分かってるはずだ。きっと、俺よりも。


『……20分で着く』

「お気をつけて」


心の籠っていない気遣いをすると、俺より先に早坂が電話を切った。


「20分で着くってよ」

「……やっぱり知らなかったんだ」

「らしいな。これでホントのホントに、凪はひとりでどっか行ったってことになるけど」


彗はテーブルに置いていた自分の携帯に視線を落とし、またかけるのかと思ったけど何もしない。


「――しかしまあ、凪もバカだよな」


ぬるくなったココアを喉に流し込んでから言うと、彗は携帯から視線を外して「なんで?」と聞いてくる。
< 599 / 812 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop