僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「考えてもみろよ。俺と有須に任せたはずの彗が、家を出た自分を連れ戻そうとしてんだから」
「……」
な? バカだろ?
考える彗に心の中でそう言いながら、マグカップを置いた。
あの凪のことだから、そこまで考えてなかったとは思えないけど。
むしろ考えていても、見つけ出せっこないと思ってるか、見つかっても彗ですら拒絶できる自信があるのか。
まあなんでもいいってか、どーでもいい。
「俺は部屋をもぬけの殻にしなかったことすら、連れ戻しに来てメッセージだと受け取るけど?」
「……ポジティブだね」
「強気な女にはこっちも強気で応戦」
「……お手柔らかに」
まだビビッてんのかお前は。頼るのおせーしお陰で困った状況になったんだぞ。頼ってきたのは素直に喜んでやらなくもねぇけど。
「いいこと教えてやろうか」
両サイドの髪を掻き上げてそのままソファーに凭れた俺に、彗は軽く首を傾げる。
「人は守るべきもがあって、それを守る覚悟があって、強くなる。生きてこうって思うのもひとつの強さなんだと。……これ、ヒカリ論」
「……」
「お前は守りたいもの、ある?」
どんなものでもいい。数が多い分、強くなるわけじゃない。少ないから、弱いんじゃない。
そのひとつひとつが自分にとってどれだけ大切で、失いたくなくて、愛しいかだけだ。
「……あるよ。多くは、ないけど……」
目尻に微笑みを帯びる彗に、今日やっと安心できた気がした。
彗が守りたいものの中に、俺が守りたいものも入ってる。きっと……いや、絶対。
「それを守る覚悟は?」
「……あるよ」
だからもう逃げない。
そう付け足した彗に微笑んで、壁にかかる時計を見上げた。
午後5時42分。
秒針は止まらない。進み続ける時間はもう戻らない。昨日も今日も明日も、時は変わらない早さで刻まれていく。
だけど人は変わりたいと思えば、いつだって変われるはずだ。
気概を示した、その瞬間から。
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