僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
◆Side:有須
「「お疲れさまでしたー!」」
午後6時半過ぎ、大半の部が活動を終えて生徒は帰路に着く。女子バレーの部室には、3人だけ。
「有須、今日もお迎えだよね?」
コートとマフラーでしっかり防寒していると、香織が意味ありげに笑った。
「今日はどっちなの〜? ていうかいい加減、どっちが好きなの〜?」
「え、え!? そそそんな……っそんなんじゃないよ!」
「噛み過ぎて面白いんだけど」
「あたしは彗くんと見た」
「朝希まで! やめてよーっ!」
部室内のベンチに座る朝希に振り返ったけれど、赤くなる顔はごまかせそうにない。ふたりはニヤニヤと口の端を上げて、楽しんでる。
「有須って奥手そうだもんねぇ」
「好きになってる自覚もなさそう」
……あるもん。
あるけど、言えないんだ。
「今は……他のことで頭がいっぱいだから」
「ん? なんて?」
訊き返されたけど首を横に振った。
「出よっ! ふたりとも、そろそろバスの時間でしょ?」
「ああそうだ! って時間やばい!」
立ち上がった朝希に続いて、香織も「うわっ」と声をあげる。
「あたし、鍵返しとくよ」
「え、え〜……っゴメン! 次はあたし返すね!」
「ありがと有須! 次はいちばんに帰してあげるから!」
「あはっ! うん、気をつけてね」
「また明日!」と言うふたりに手を振り、バタバタと響く足音が遠のくと笑みが零れた。
間に合うかな? ……って、あたしも早く行かなきゃ……!
急いで鞄を肩にかけ、忘れ物はないか確認してから部室を出る。すると、突然目の前に現れた人影にぶつかりそうになった。
「……っごめんなさ……」
とっさに身を引いて顔を上げると、気まずそうな表情が目に入る。
「志帆先輩……」
思わず口に出すと、志帆先輩はあたしと目を合わせた。
あの頃感じた悪意は、影も形もなかった。