僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「わ、忘れ物ですか? 今、ちょうど鍵閉めようとしてたとこで……」
バカ、声上擦ってる……!
「うん、ちょっと……」
言いながら道を開けると、志帆先輩は部室に入っていった。
……大雅先輩がお見舞いのプリンをくれた日以来、いじめはパッタリと止んだけれど、すぐ何事もなかったように振る舞えたわけじゃない。
1年生と2年生の間はギクシャクして、それは時間が解決してくれた。今は笑いながら楽しく部活をしてる。
だけどあたしと志帆先輩だけは、違った。
ふたりきりになったことがない。それは志帆先輩が極力あたしと関わらないようにしているから。
会話も必要最低限で、必ずあたしが誰かといる時に話しかけてくる。事務的に、簡潔に。
「……鍵」
「えっ」
ドアの閉まる音に顔を上げると、志帆先輩が手を差し出していた。
「貸して、鍵」
「あっ、はい……!」
急いで握り締めていた鍵を渡すと、志帆先輩は錠を掛ける。
……え?
志帆先輩が鍵を持ったまま歩き出し、あたしは体の節々を緊張させたまま動けない。
……か、鍵。
返すのは1年生の仕事なのに、どうしよう。そう考えていると、志保先輩が階段を降りる前に振り向いた。
「……帰んないの?」
「えっ、あ、はい! 帰ります!」
ギュッと鞄の紐を握って声を出すと、志帆先輩は何の反応も示さずに階段を降りていく。あたしも恐る恐るその後に続いて、階段を降りた。
いいのかな、鍵。わざわざあたしが返しに行きますって言うのも、感じ悪いかな。でも、言わないのも……。
「ねぇ」
「はいっ!?」
優柔不断な自分にうんざりしていると、再びかけられた声に過剰反応してしまう。
志帆先輩は僅かに目を見開くだけで、やっぱり悪意なんてものはなかった。