僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「帰るよ。凪と一緒に」
彗の返事を聞いた颯輔さんは目を細め、腰を上げた。
「……行こう、早坂」
「じゃあ俺らはこれで。……彗、コート頼む」
早坂に言われて立ち上がった彗は、自室に向かう。少しだけ、瞳を涙で濡らしてるようだった。
すぐにコートを持ってきた彗は、それぞれふたりに手渡す。
「見送りはいいよ。また明日、連絡するね」
彗の頭を撫でる颯輔さんの横で、早坂が鞄から何かを取り出すと、有須に差し出した。
「凪が気に入ってるバスオイル。湯船に張ったお湯に、数滴垂らして。今日は3人ともそれに浸かって、ゆっくり寝るんだな」
……そんなに疲れてるように見えんのか、俺ら。
「夜分遅くにゴメンね。……そのうち、また」
「はいっ! お気をつけて」
もらったバスオイルを握り締めて有須が頭を下げると、早坂と颯輔さんはリビングを出ていく。
「……祠稀?」
彗の声に反応することなく、俺はふたりの背中を追いかけた。すでに玄関のドアを早坂が開けていて、廊下には外気が流れ込む。
「颯輔さん」
靴を履いていた背中に呼びかけたのは自分なのに、それに続く言葉は出なかった。
……なんで追いかけてんだ、俺。もう話すことなんかないのに。
「……偉そうで、喧嘩っ早くて、いつも人をバカにする」
「……は?」
「凪がよく、ムカツク!って言ってたよ、祠稀くんのこと。だけど心根は優しいって。芯がブレない強い人だとも言ってた」
口ごもる俺に颯輔さんはくすりと笑って、続ける。
「凪がそんな風に言うのは、俺の記憶の中じゃ祠稀くんが初めてだよ。彗については相変わらずだし、有須ちゃんのこともかわいくて素直な子だって褒めてた。……羨ましがってたのかもしれないけどね」
「……」
追いかけて、名前を呼んどいて黙る俺に、どうしてそんな話をするんだ。
……なんて、俺は何かを話してほしかったのかもしれない。
このまま自分が正しいと思う道へ、迷わず進めるように。