僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ
「邪魔だと思ったことも、ないよ。ふたりきりだったから。いつも、もっと話したいって、近付きたいって思ってた」
あたしはさっと俯いて、唇を結ぶ。
「……でも、できなくて。心から話せないことが、近くて遠い距離が、寂しかった。だから自分に自信がなくなって、目を背けちゃったけど……」
数日前、サヤが語った未来を思い出しながら、浮かびそうな涙を我慢して、顔を上げる。
「必要だった。凪は俺の、支えだったよ」
ほんとう?
そんなこと聞かなくたって、嘘じゃない。サヤの笑顔は、嘘じゃない。
「……病院でも、言ったけど。ふたりで過ごした時間が、思い出があるから今の俺があって、数年後の未来を想像できるのも、そんな幸せを知ってるのも、凪がいたからだよ」
「……あたしだって、そうだよ……」
自分は何が好きで、嫌いで、何をするのが楽しくて、何をしたらつまらないか知ってる。
サヤがいなければ家事なんて覚えなかっただろうし、ココアなんて好きにならなかったかもしれない。
サヤとずっとふたりだったら……同居なんて、したくなかったかもしれない。
この家を出られるなら、サヤの条件であった同居でもなんでもしてやると思ってたけど。本当は、同居は楽しいものだと知ってたからできたことかもしれない。
彗が来て、秋元くんが来て、緑夏ちゃんが来て。過ごした時間は様々だったけど、楽しいと思う時間はあった。
そんな小さな幸せを、あたしは今までいくつ、取り零したんだろう。
些細なことは当たり前すぎて、いつも気付かない。
「……サヤ」
あなたと過ごした時間の中にも、たくさん幸せなことがあったよ。
全部、何もかも思い出すことは無理だけど、あんなことがあったなって、思い返すことはできるよ。
なんで、もっと話をしなかったんだろう。
なんで、もっと話を聞かなかったんだろう。
――まだ、間に合う?
ギュッと太ももの上で拳を握る。俯いていた顔を上げるには、そのくらい勇気を出さなきゃいけなくて。そんなことをしてる間に、サヤが動いたのが分かった。
ソファーが少し沈む。一瞬だけ息が止まる。あたしの隣にサヤが座るから、体の右半分だけが異様に強張った。