僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅱ


ぎこちなく顔を上げてサヤを見たけど、きっとあたしは泣きそうな表情をしてるんだろう。


こんな時こそお得意のポーカーフェイスで笑えばいいのに、できなかった。


サヤが待ってる。

あたしが話すのを、微笑んで待ってる。


ずっと、ずっと前から。



「……あたしを引き取ってくれて、ありがとう」


こんなこと、一度も言ったことなかった。


「大変な……苦しい思いまでして、育ててくれて……ありがとう」


もう、お母さんとの思い出はとても朧気だけど、サヤは覚えてるんでしょう?


お母さんと、あたしと出逢った日のこと。お母さんと話したこと。お母さんに惹かれていったこと。付き合って、結婚する約束をしたこと。


あたしと3人で暮らすことを、夢見てくれてたんでしょう?


叶わなかったけれど。そんな夢は、儚く散ってしまったけれど。



「お母さんの生き方を継いでくれて、ありがとう……」


サヤがお母さんを、とても、とても、愛していたことが分かるよ。だからあたしは、ここにいる。


サヤがあたしのことも、愛してくれたから。


「今までずっと……心配させて、不安にさせて、ごめん」


これからまっとうに生きるとは、言い切れないんだけど。少しの心配も、不安も、迷惑もかけないとは言えないんだけど。


今は、今でしかなくて。今日と同じ日は、もう来なくて。明日がくるかもわからない。


だからもう少し毎日を楽しく、素直に、正直に生きるよ。今できる精いっぱいで、今目の前にいるサヤと、向き合うよ。



「謝りたいことは、いっぱいあるんだけど……それ以上にあたしは、サヤに出逢えて、よかった。サヤに引き取ってもらえて、よかった。育ててくれたのがサヤで、よかった」



……笑って、サヤ。


本当に、そう思ってるから。


目に涙を浮かべるサヤの手を、そっと握った。幾度となく、あたしを包んでくれた温もり。あたしを抱き上げて、抱き締めて、守ってくれた。



「……お父さんがサヤで、よかった」



だからお願い。


笑って。

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