空をなくしたその先に
ヘクターともまだだった、というのならなおさらそうなのだろう。


「僕は無神論者だから、気にしないけど。

君がそう言うなら、違う手を考えよう」


彼の名を口にさせた自分に腹を立てながら、ディオは腕を組む。

ディオがこの手を思いついたのは、去年あった出来事を思い出したからだった。

仲間の一人が酒場で給仕をしていた女性と駆け落ちしてしまったのである。

本来ならば、結婚するにあたっては、証明書が必要になるはずなのだ。

とはいえさまざまな人間が集まる場所柄なのか、
書類を無視する司祭もいるらしい。

実際、友人もそういった司祭の一人に式を挙げてもらった後、彼女と一緒に消えた。

その後一通だけ届いた手紙には、苦労してはいるが、何とかやっていると近況が記されていた。

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