はじまりの合図

「いや、いいから」

折角いいって言われたんだから、玲央って呼ぼうか。

玲央は黙って意地悪そうな顔をした。その途端私は戦闘モードに入る。

「…なに」

『いや、お前見てたら虐めたくなって思って』

「………はっ!?」

『Mそうな顔してんだよ』

「M…」

私がマゾだと?お前がSっぽいからそう思うだけだろ!

『あー、まじ腹減った。帰ろっと』

「あ!帰る気!?まだダメだよっ!?」

『いいの、いいの』

「今帰ったらズルいってば!」

教室を出ようとする玲央の腕を引っ張った。

『お前ワガママだな』

引っ張る私を見下ろしてまたあの意地悪な顔で笑った。掴んだ冬服が少し動いた。

『帰んなかったらいいんだろ』

渋々方向をくるりと変えた。

「お腹すいたんなら、なんかあげよっか?おにぎりとクッキー持ってる」

『は!?なんで持ってるわけ』

「お母さんから無理矢理…」

玲央は吹き出すと今まで以上に笑った。こんなに笑うんだ、玲央って。

『お前の母ちゃん、天然か!?バカだな』

玲央の大きな笑い声に理香子がこっちを見た。…今は来ないで…。やっと仲良くなれたから。

『ゆっこ〜?なんしたん、そんな笑って』

「いや、笑ったのはこいつで…」

『いいから行くで。有紗が話あるって言ってんねん』

無理矢理腕を引っ張って有紗のところへ連れてこられた。…玲央と折角話せてたのに。

「どうした?」

『ゆっこ、あんな奴と喋ったらヤバいで。今アイツの噂聞いたんやけど…』

「教えて!」

有紗の言葉を遮ってまで言うと、有紗は呆れて目を閉じた。

『まぁ、聞いてや。安藤くん、小学生のときお父さん亡くしてたらしくて、そっから荒れていったらしいねん。女遊びも激しかったみたいやで…』

「でも噂でしょ?」

『そうだけど…』

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