私、海が見たい

二人黙って腕を組んで、坂道を下りて行く。

(この時間が、ずっと続けばいい)

恵子は、以前のように、
しがみついたりはしなかったが、中村は、
その手の感触を確かめながら、歩いていた。

(なぜ、この時間が、続かないんだ)

どうしようもない運命めに、
怒りにも似た気持ちを覚えながら、
中村は、昔のことを思い出していた。

(最後に、いい想い出が出来た)

そう自分を納得させようとしても、
その気持ちを鎮めることはできなかった。


二人が、展望台の駐車場まで、やってきた。

二人とも、まっすぐ前を見て、歩いている。

その間、会話はなかった。

何か言えば、恨み言になる様な気がして、
中村は、何も言えなかった。

恵子も、語りかける事はしなかった。

車の後ろまで来ると、照れ隠しに、
おどけた調子で中村が、

「ありがと」


しかし、恵子はうつむいて
黙って静かに手を引き、
助手席のほうへ向かった。
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