私、海が見たい
海から吹いてくる風が、冷たかった。
綾は中村に背を向けて、目を足元に落とし、
足で砂をつついている。
「お母さんと、久しぶりに会って、
いろいろ話しをして、
お互いの幸せを確認しあって、
そして………、別れたんだ。
俺は、“俺のことは心配いらないよ”、
と伝えるために、
その時々の気持ちを書いた
ノートを渡してね、
“よし、俺もいい人見つけて結婚しよう”
なんて思ったんだ。
これでようやく、恵ちゃんを
あきらめられる、と思ったんだ」
沖を見ていた、中村の言葉が止まった。
綾が振り返り、黙り込んだ中村を見る。
「それが、………」
中村は、遠くを見つめたまま、
重い口を開いた。