私、海が見たい
恵子が降りた後も、恵子の残り香が、
車の中に、漂っていた。
車を運転しながら、
中村は、今日あった事が、現実なのか、
わからなくなっていた。
恵子と、笑いながら話が出来るなんて、
思ってもいなかったのだ。
恵子が車を降りてから、思い出すのは、
恵子が去ったあとのことばかりだった。
中村は、友達から、
恵子が結婚すると聞かされたときの事を、
思い出していた。
表では平静を装いながら、心の中に、
絶望感が拡がったのを、思い出した。
(そうか、あの時俺も、
周りが、モノクロに見えていたなあ)