私、海が見たい

中村が、自分の部屋に入ってきた。

中村の趣味は、オーディオである。

部屋には、自作の大型スピーカーが、
ソファの前に、ドンと座っている。

中村は、ステレオの前に立ち、
さくら草の香りを嗅いだあと、
大きな溜息を一つ、ついた。

スピーカーの上に植木鉢を置き、
レコードを探し始めた。

今までの、もやもやしていた過去と、
決別するために聞く曲を探した。

(もしかして、
 今までと違う感じに聞こえたのなら、
 全て、吹っ切れたのかもしれない)

中村は、そう思った。

レコードをかける。

レコードが回る。

そして、音楽が流れ始めた。



スピーカーの横の本棚には、
写真立が伏せてあった。

いつから伏せられたままになのだろうか、
その写真立を手にとる中村。

中の写真は、中村と恵子のスナップだった。

付き合っていた頃の楽しさを物語るように、
2人の笑顔で溢れている。

中村は、しばらくそれを見ていたが、
再び、静かに伏せて置いた。

中村にとって、懐かしい曲が、流れていた。

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