勇者は僧侶のなんなのさ
シサがさらりと言いのけた。


「まぁね。思い出さないわけじゃないかな」


そんな答えをしておく。


「フェイは雰囲気変わった」


「そう?」


「うん。昔は尖ってた」


「今は丸くなった?」


「丸いというか、緩くなったというか」


「……それは褒めているのかな?」


シサは無視して本を読みはじめた。


答える気は無いようで、椅子に座ってページをめくる音だけが部屋を満たす。


これは話かけると本格的に怒られてしまいそうだ。


やることが無いので、キッチンへ行き朝食で使った皿を洗う。


水は冷たいが、先月ほどではないし直ぐに慣れる。


「緩くなった、か……」


昔の自分はどうだったか、思い出す事は最近少なくなっていた。


比べる事も最近は殆ど無い。


昔の自分は何がしたいのかどうしたら良いのか分からなかった。


両親が死んでからはギルドで働きながら一人で生活していくことになったが、その時から周りの大人達に「いつも笑っている」と言われている。


シサが「気持ち悪い」と言ったこの笑顔、これがもし無かったら自分を保てなかった。
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