勇者は僧侶のなんなのさ
ランスは上機嫌な笑顔になり、グラスを両手で持った。


「これで私も大人だな」


野菜カクテルを口一杯に入れる。


「あー…………」


忠告しようと思ったが遅かった。


ランスの顔がみるみる青ざめていき、目を白黒させている。


頬は膨らんだままで萎む事は無く、逆に膨らみ始めたようにも。


「酷な事だとは分かるんだけど、吐いちゃダメだよ。なんとか飲み込んで。胃に流し込むんだ」


ランスはこちらを向き、目に涙を貯めながら首を振った。


「ごめんね」


ランスの口と鼻を左の手の平で抑える。


じたばたと抵抗されるが、手を離さない。


苦しいはずなのに、それでも飲み込まないランス。


右手をランスの顎にあて、膨らんだ両頬を下からゆっくりと指で潰していく。


これにはさすがのランスも抵抗できず、少しづつ飲みはじめた。


「頑張って、あと少し」


そう言ったら、ランスは鋭い目つきでこちらを見た。


クロスは何食わぬ顔でグラスを磨き、男性客はまだランスの動向を眺めている。


心なしか口角が上がっているように見えた。


ランスの頬は普段通りのサイズに戻り、残るはあと少し。
< 76 / 78 >

この作品をシェア

pagetop