溺愛コンプレックス
私は鼻歌を歌いながら家を出た。
「おはよう」
家の玄関に、レン先輩が立っていた。
これも一週間前から、頼んでもないのに毎朝迎えに来ている。
「…お、おはようございます…」
私はにやけた顔を真顔に戻して、小さな声であいさつした。
本当はもう来ないでほしい。
あんな真剣に告白されて、私はもう意識しちゃって普通に話せない。
それに、レン先輩もカナメ並みに容姿端麗なもんだから、すごく目立つ。
おかげで近所のおばさんたちから、私と先輩の関係がうわさの標的にされている。
「今日は『もう来ないで』って怒らないんだな」
からかうようにレン先輩が言う。
私は足早に歩きながら、「言っても来るじゃないですか!」とムキになった。
「本当は、もっと前からこうしたかったんだよ」
そう言うと、私のかばんを取り上げた。持ってくれるつもりらしい。
「でも、君のボディーガードがやり手だから、なかなかそうさせてはくれなかった」
だから今がチャンスなんだ、と優しくほほ笑んだ。
先輩といると、ドキドキする。
あんなに冷たい人だと思っていたのに。
私は前よりずっと、この人に惹かれてると思う。