君の瞳に映る色


「いやぁ……んッ」

僅かに唇が離れると言葉を紡ぐ。

しかしその言葉ごと櫂斗に
呑みこまれて、
ようやく解放された時には
息苦しさでむせた。

涙が次から次へと溢れてくる。

言葉にならない言葉が
嗚咽として漏れる。

押さえつけられていた身体も
解放されるとズルズルと
棗はその場に崩れ落ちた。

「じゃぁ、選ばせてあげようか」

冷たい響きの言葉が上から
降ってくる。

「あの男を選ぶか家族を取るか
好きにすればいい。
うちの一族は財界にも顔が利く。
破談にして君のお母さんの会社が
うまくやっていけるかな?」

零れた涙がコンクリートの
地面に染みを作る。

「明日の朝、この先の角に車を
待たせておく。戻る気が
あるなら君の右手が握っている
指輪を嵌めて帰っておいで」

櫂斗が遠ざかる足音がする。

棗は動くことができずに
呆然とただ地面を見つめていた。








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