【Transformation of Tony】トランスフォーメーション・オブ・トニー
目の前のカウンター席を勧め、
お通しの器と箸をセッティング
しながらマスターが聞いて来た。
『えぇ、まぁ…
独りでちょっと飲みたい
気分かなぁ~
なんて…。』
麗子が愛想笑いを浮かべて
応えた。
『しょうがねぇなあ、
トニーのヤツ!
あぁ、でも心配しなくても
いいよ。
アイツさぁ、此処に女の子
連れて来たのローザちゃんが
初めてだし、ああ見えてさ、
誠実な男だからさ。
何があったか知らないけど
ケンカしたんならトコトン
飲んで、アイツに迎えに来て
もらえばいいよ。
こんなカワイイ彼女泣かすな!
直ぐ迎えに来い!って俺が
電話して軽く説教しといて
あげるからさ…♪』
『え?…や…ち、違うんです!
アタシ、チーフとは付き合って
るとかじゃ無くて…
その…ただのお客で、失恋して
チーフが慰めてくれて…!』
マスターの早合点に麗子が
両手を振りながら全面否定した。
『…え?そうなの?
いや~ごめんごめん。
そうなんだー!
この間、なかなか良い雰囲気
だったからさぁ、てっきり
彼女だとばっかり思ってたよ。
こりゃまた失礼しましたっ。』
そう言いながらマスターが
取り繕う様におどけた敬礼を
して見せた。
『…ふ~ん、失恋しちゃっ
たんだー。
こんな可愛い娘、俺なら
放っておかないのになぁ、
勿体無い…。』