-境界リセット-
「フレッシュピーチジュースふたつで」
「かしこまりました」
手早く注文を済ませ、ジョウはぱたんとメニューを閉じた。
それを脇にやってから、残りが少なくなったグラスを、一気に傾ける。
氷を口に含んだのか、右頬だけが膨らんでいる。
リスみたいだな、なんて考えて、小さく笑った。
そのとき。
ふっ、と。
グラスをいじっていたジョウの指が、
動く。
―頬に、
―ひやりとした、感触
「…笑ってるほうがいーよ」
なにが起きたか分からない私に、ジョウが笑いかける。
「…さっき、」
また、ジョウの眉が少しだけ下がる。
「俺の家の話したとき、ウメ、申し訳なさそうな顔したじゃん?」
―そうだったのかな
つつつっ
と私の頬を指先が這う。
「でもさ、別にウメのせいじゃないし、笑っててよ」
にっ、と。
ジョウの口端があがる。
指先が触れたところから、
徐々に熱を持っていく。
「―…っ」
なにか言わなきゃいけない気がして。
言葉にしようと息を吸ったとき。
「フレッシュピーチジュースお待たせいたしましたー」
間延びした声が、入ってきた。