-境界リセット-
場所が場所だからなのか。
中途半端な時間からなのか。
店は空いていた。
私とジョウの他に、一組しか客がいない。
それが逆に、このお店の落ち着いた雰囲気を倍増させていて。
さっきまで太陽の下に長時間いた私的としては、
安心できる空間になっていた。
「ウメ、なんにするー?」
「んー…と、」
ジョウに聞かれて、ドリンクメニューに目を通す。
コーヒー、アイスティー、ウーロン茶、オレンジシュース…
定番の商品が続いた下に、目当ての品はあった。
「フレッシュピーチジュースにしよっかな」
「旬のフレッシュジュース」の欄に、スイカや梨のジュースと一緒に並んでいる。
桃のジュースなんてあんまりないから、桃好きな私としては嬉しかった。
「ウメ、桃好きなの?」
よっぽど嬉しそうな顔をしていたのか、運ばれてきた水のグラスを揺らしながら、ジョウが聞いてきた。
「うんっ!昔ね、お母さんが桃の香りの香水くれて。それから凄く好きなんだ」
「へぇ…なんかいいな、そういうの」
からん、とジョウのグラスの中で、氷が音を立てる。
「…"そういうの"?」
「んー…なんか、家族との思い出?みたいな?」
ジョウの右眉が、少しだけ下がる。
ははっ
とジョウは軽く笑って見せたけど、その笑い声はなんとなく乾いていて。
「あ…」
私は、前にしたジョウの家庭の話を思い出した。