【天の雷・地の咆哮】
自分でも、どうしてこんなにいらいらするのかわからない。
父への反発なのか、それとも母の愛情を確認したいのか。
あるいは、ただ勉強が嫌いで避けているだけなのか。
とにかく、何をしても充実感を得られることがなく、
誰と口を聞いても、何かしらもやもやとした感情が生まれ、
マルスは、その不快感を理性で押しとどめることができずにいるのだった。
・・くそっ!
大好きな母を泣かせるつもりなど毛頭なかったのに、
結果的にそうなってしまったことで、さらにいらいらが募る。
ディスコルディアの誕生以来、ロカの奔放ぶりは目を覆うほどに酷さを増し、
今やウェスタ国の人間ばかりか、国境を超え、
隣国にまで“狂王”の名であだ名されるようになっていた。
役立たずの王に代わり、政を引き受けるのは、アニウスとルクスの二人。
お互いがお互いを牽制しあい、危うい均衡の上に成り立っていた。
ニュクスには、いまだディスコルディア以外の子どもはおらず、
それは当然のように、マルスの立ち位置を微妙なものにしていた。
敏感な年頃のマルスにとって、そういった要素の一つ一つが、
よりいっそう彼を不安定にさせていたのかもしれなかった。