【天の雷・地の咆哮】
「それで、ヴェローナ様を泣かしてしまったと」
はい、とマルスは小さな声を落とした。
母親と喧嘩をした少年が訪れたのは、なぜか妾妃である自分の母親と仲の良い、正妃の部屋であった。
それが初めてのことではないらしく、ニュクスはすぐに人払いをすると、
マルスに椅子を勧め、自分も正面に腰掛けた。
最後まで根気よくマルスの話に耳を傾けてから、ようやく最初の一言を口にしたのだった。
「マルス様は、王がお嫌い?」
「嫌いというのとは、違うと思います。
剣も教えてくれるし、行った事のない地方のこともたくさん話してくれるし」
「では、ヴェローナ様がお嫌い?」
「そんなことない・・・けど、なんだかうっとおしいというか。
でも、そんな風に思う自分も嫌で。育ててもらってるのに」
ニュクスは目を細めて頷く。
「そうね。あなたがそう考えるのも無理はないわ。
それはね、あなたが大人になってきた証拠よ」
「大人?」