【天の雷・地の咆哮】
聞いてくださってありがとうございました、と頭を下げ、
廊下を走っていく様子がなんともかわいらしく思えて、
ニュクスはその背中が見えなくなるまで見送った。
・・時間のたつのは本当にあっという間ね。
腕の中にすっぽりおさまっていた幼子が、今は自分の背丈を越し、自分を見下ろすようになった。
愛しさと同時に、わずかな寂しさも感じて、ニュクスは複雑な思いを胸に抱く。
とても好きになれぬと思っていた子どもが、今では自分の子同様にかわいく思える。
それは、自分を慕ってくれるマルスへ自然に感じる好意であったし、
何より長い時と空間を共有し、成長を見守ってきたことから湧いてくる情であった。
もっとも、そんな風に心穏やかに過ごせるようになるまで、
ニュクスなりの大きな苦悩を伴ったことは言うまでもないが。
・・ディスコルディアも、そのうち巣立っていくのよね。
娘を産んだ日のことが、つい昨日のことのように思い出され、
ニュクスはそっと目頭を拭った。