【天の雷・地の咆哮】
その日の深夜。
本来なら月が中天にあるはずの時刻なのだが、
濃い雲が邪魔をして、いくら目を凝らしてもその姿は確認できない。
必然的に大地は暗闇に覆われ、ウェスタ神殿の灯りだけが煌々と瞬いていた。
マルスは何度も母の部屋の前をうろうろと歩き回った挙句、
ようやく決心をして、部屋の扉を開いた。
音がしないようにそっと体を忍ばせる。
太陽がある間は、自分の顔がはっきり見えて素直に謝れない気がして、
わざわざ侍女のいないこんな時刻を選んだのだった。
「母上」
誰もいないはずの部屋の中で、突然マルスの声がして、ヴェローナは思わず体を縮こませる。
「マルスなの?こんな時刻にどうしたのです?」
眠る直前だったのだろう。
ヴェローナは夜着姿で、灯りも寝台の横に小さなものが一つつけられているだけであった。
「あの、昼間のことで」
言いよどむマルスの声を聞いて、ヴェローナはすぐにマルスの目的の察しがついた。
ニュクスから大方のあらましを聞いていたのだ。