【天の雷・地の咆哮】
冷たく光る刃を目にした瞬間、ヴェローナは、マルスを庇って己の体を盾にする。
頭で考えるよりも早く、母としての本能がヴェローナの体を突き動かした。
・・マルス。
闇の中にうごめく、獣のような血走った男の瞳に見据えられ、
瞬きするほどの間に、ヴェローナは己の死を覚悟した。
最期の瞬間に彼女が心で呼んだのは、他の誰でもなく愛しい息子の名。
ヴェローナは、そっと瞳を閉じた。
男の腕が、躊躇なく、びゅんと空気を裂いてヴェローナの頭上に振り下ろされる。
巻き起こった空気の振動で、灯りがゆらりとゆらめいた。
「やめろ!」
マルスが叫んで立ち上がった瞬間、
ガキン!
重苦しく鈍い音が、闇の殺気を打ち破った。
・・何?
ヴェローナは、自分の身に降りかかるはずの痛みがいっこうに襲ってこず、
恐る恐る瞳を開いた。