【天の雷・地の咆哮】
・・ホーエン!
ヴェローナが最初に目にしたのは、見覚えのある大きな背中。
自分が幼い頃から、兄のように慕った許婚の姿だった。
いつの間にか、ヴェローナの正面には大きな岩のような塊が壁の様にそびえたち、
彼女を貫くはずだった、恐ろしい獣の刃を防いでいる。
「貴様あぁ~!邪魔をするなぁ!」
もう一度、男が剣を振り上げた瞬間、
狂った男の雄たけびは、彼の前に立ちはだかる壁の様な男の手によって、うめき声へと変えられた。
「母上!お怪我はありませんか?」
マルスがヴェローナに駆け寄る。
放心したヴェローナの体を揺すると、目の焦点がやっとマルスの顔にあった。
「マルス・・・怪我は?」
「なんともありません。母上こそ、大丈夫ですか?」
大丈夫よ、その一言をやっとのことで搾り出す。