【天の雷・地の咆哮】
ホーエンが四隅の灯りを手早く灯すと、視界がぼんやりと開ける。
ヴェローナの足元には、剣を握ったまま床にうつぶせになった男の体。
よく見ると、その男には片腕がない。
「うっ!」
体の奥から、気持ちの悪さがせり上げてきて、ヴェローナは口元を手で覆った。
足元から崩れ落ちるようにしてしゃがみこむ。
「母上!しっかりなさって下さい。今、人を呼んでまいります」
慌てて走ろうとするマルスを、落ち着いた低い声が制した。
「マルス様。
私が誰か呼んでまいりますので、どうぞ、お母上についていてさしあげて下さい」
「あ、ああ。頼む、ホーエン」
ホーエンは慎重に部屋の周囲を見渡してから剣をしまい、
隙のない動作で立ち去っていく。
その巨躯を眺めながら、あの男がまともにしゃべるのを初めて聞いた、とマルスは思った。