【天の雷・地の咆哮】
「ヴェローナ」
ぽつりと小さく、ロカが囁いた。
空気に溶けそうなほどわずかなその音が、ニュクスの頭の中で、はっきりとこだまする。
聞き間違いでは、ない。
・・ロカ!?
たまらなくなって目を開けると、ロカの瞳には自分でない別の女の姿が映っていた。
はっとして振り向くと、そこには少しお腹のふくらみが目立ち始めた女が、
大きな瞳を潤ませて、震えながら立っている。
「ロカ様。その格好は、まさか・・・」
ヴェローナの両の目から、一滴の輝きが頬を伝って床にこぼれ落ちた。
そのまま二人に背を向けて、ヴェローナは転げるようにして部屋を飛び出した。
「待て!ヴェローナ!」
ニュクスの体を突き飛ばすような体勢で、ロカは後ろも見ずに駆け出す。
彼の中の優先順位がどうであるかを、はっきりとニュクスに見せ付けて。
一人きりの静けさを取り戻した部屋の真ん中で取り残されたニュクスは、
呆然としたまま、その場を一歩も動けずにいた。