lotlotlot2-ふたつの道-
「元の体に戻れば静かになるだろう・・・。」
タマグイの力は、魂のみに有効だ。実体を持つ者には効果がない。つまり、今暴れているイバーエも、元の体に戻れば幻聴など聞こえなくなるのだ。
そして、こうしている間に、イバーエの体は完全に元に戻っていた。
メルツは魂を元に戻す準備に取りかかった。
「あなた。」
声が聞こえた。同時に目を疑った。
「アキヤ・・・。」
メルツの見たのは、ずいぶん前に死んだはずの妻の姿だ。一番輝いていた頃の姿で、やさしくメルツに微笑みかける。
首を大きく振った。
「あれは幻だ。タマグイが幻覚を見せているのだ。」
しかし、それはおかしい。なぜなら、タマグイの力は魂のみに有効なのだ。犬とはいえ、実体を持つメルツに対して力を発揮出来るわけもない。
何度も、何度も自らの目を覚まさせようと、力強く首を振った。それが幻覚が見える理由を教えてくれた。
体がずれる感覚。気持ちでは上を向いているのに、瞳に映る景色は床を見ている。そんな感覚。これはメルツの魂が、肉体から抜け出ようとしている事を意味する。
「犬の体は無理があったか。」
それでも逃げる訳にはいかない。ここで逃げたら、イバーエは生き返れない。
「lot。」
半ば無理矢理、魂を押し込んだ。狭い路地に迷い込んだような窮屈な感覚。それがメルツを襲った。しかし、それでも強引に押し込み続ける。
意識が遠くなっていく。
最後にもう一度だけ唱えた。
「lot。」
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