lotlotlot2-ふたつの道-
弾くしかない。
「lot。」
「bic。」
ほぼ同時に唱えた。僕はほぼ同等の雷を、アイワイさんは水を出した。まず雷が、あいつの雷を相殺した。次に、その雷を水が飲み込む。帯電した水は、そのまま地面に染み込んでいった。
「なかなか息が合ってるじゃないか・・・。もしかして・・・お前ら付き合っているのか?」
顔が真っ赤になった。まさか、そんな事を言われるなんて、考えもしなかった。心が乱れる。これは言術使いには致命的だ。言術は想いを言葉に乗せる。しかし、こうも心が乱れては想いを創れない。
「落ち着いて、イバーエ君。」
アイワイさんは冷静だ。それはそれで複雑な気分だ。
「うん。」
そうは言うものの、顔の赤みはいっこうに取れない。額に汗を滲ませ、全身で同様を表している。
<ムカついた。>
好きな女の子の前で恥をかかされ、僕は怒り心頭だ。
「どうも男の方は女に気があるみたいだけど、女の方は何とも思ってないらしいな。」
完全に頭にきた。
「あぁ、ムカついたぁ。lot。」
雷がダメなら、今度は炎だ。地獄の業火と呼ぶのにふさわしい、大きな大きな炎を襲いかからせた。
「イバーエ君、ダメ。」
アイワイさんの声に反応し、炎を無理矢理消し去った。
メルツだ。メルツが丘を駆け上ってくる。ちょうど、あいつの真後ろにいる。もし、アイワイさんが止めてくれなかったら、メルツまでまる焦げになるところだった。
<なんで、こんな時に・・・。>
ちょうど怒りをのせて、言術を唱えた。だから、あんなにものすごい炎を生み出せた。僕の言術は不安定だ。だから、次も同じように出来るとは限らない。
もしかしたら、僕は千載一遇のチャンスを逃したのかも知れない。
「今のは・・・ビビったぁ。」
けけは言った。
「でも、ここまで届かなきゃ意味はないな。」
今度は笑った。そして、その様子からメルツに気がついていないとわかった。
視線はイバーエを見たままだ。
「さて、今度はこっちからいかせてもらうよ。」
大きく息を吸った。

意外な声が届いた。
「lot、lot。」
じいちゃんの声。もう、二度と聞くことはないと思っていたじいちゃんの声だ。
地面は水面に変わっていた。あいつを中心に波紋が広がった。
< 73 / 87 >

この作品をシェア

pagetop