紅芳記
「…何事だったのでございましょうか……」
「…さあ、わしにもわからぬ…」
殿と顔を見合わせて、二人でため息を尽きました。
屋敷の中は先程の事が嘘のように、しんと、静まりかえっております。
それから私たちは、まんと源之助を乳母たちに預け、二人で団欒していました。
「父上と母上の申されていたことが、ようわかったわ。」
殿はそういって菓子をひとつ、口の中に放り込みます。
私もひとつ手にとり、同じように口の中に放り込みました。
「まことに。
ご側室がいるなど、想像もしておりませんでしたわ。
まだ祝言を挙げて間もないといいますのに。
あれでは利世殿が気の毒にございます。」
「ははっ。
だが、子がおるとは良いことじゃ。
まんと源之助が生まれてようわかった。
源次郎も早うこの喜びを得てもらいたいものよ。」
「…ならば、ご側室は何人おっても構わぬと?」
私は殿をギロリと睨みました。
殿は、おお怖っ、と肩を竦め、もうひとつ菓子をお食べになりました。