紅芳記
パタパタと足音がし、あきが額に汗をかきながらやって来ました。
深く頭を下げ、利世殿の事を詫びます。
「本来ならば、姫様…御方様がおいでならさねばならぬところにござりまするが、何分御方様はいまだに殿と揉めていらっしゃいます故に…」
「良い。
源次郎にも悪いところはあったのじゃ。」
殿がそう申されますと、あきは首をブンブンと横に振り、頭を畳にこすりつける程に下げました。
「そのようなっ…!
関白様直々の御申し出にございますのに姫様ときたら…」
「待て。
関白様直々の御申し出とな?」
「は、はい…。
関白様の姫君の清姫(キヨヒメ)様を是非にもと…」
何と言う事でしょう。
関白様がご息女を下さるとはそれだけ真田を評価してくださっているということにございます。
しかし、既に源次郎殿の正室として、“太閤殿下”のおとりなしで利世殿が納まっておいででした。
秀頼君ご誕生から、太閤殿下と関白様の仲に不穏な噂がまことしやかに囁かれていただけに、今度の事に些かの不安が湧きます。
──この不安が、誠となるのも、時間の問題でございました。