紅芳記
利世殿は部屋を飛び出し、廊下で
「才蔵!
才蔵はおるか!?」
と、才蔵という忍びの家臣を呼び付けられました。
この才蔵という者は、忍びのなかでも佐助と並んで腕の立つ者にございます。
私は、ふと、まんの生まれる以前のことを思い出しました。
佐助と沼田まで駆け抜けた時の事を。
忍びの者の力があれば、何処へでも簡単に参れましょう。
それは、源次郎殿にもわかったらしく、慌てて源次郎殿も飛び出していかれました。
「利世っ!!
すまぬ!!
かの者には暇を出す!!
いま暫く儂のもとに居てくれっ!!」
「いいえ、御殿はきっとまた別の側室を置いてしまわれましょう!」
「そのようなっ!!」
また喧嘩が再開してしまい、私と殿は同時にため息をつきました。
が、すぐにその喧嘩は終いになりました。
「姫様ーっ!!
利世姫様ーっ!!」
あき、という利世殿の侍女によって。
「姫様、一体なにをお考えにござりまするか!
お殿様がご側室を置くは世の習いにて、それをかようにお咎めになるとは、何事にございますっ!!!
さあ、謝りなさいませ!!」
あきの声は、私たちのもとにまではっきりと届き、それから屋敷の中は何事もなかったかのように静かになりました。