紅芳記
皐月に入り、頼綱はいよいよ危篤となって、七日、真田一門を支えた名家老は惜しまれながら世を去りました。
頼綱の嫡男頼康が喪主となり葬儀が執り行われ、私も殿と共に頼綱を弔います。
殿は頼綱を本当に頼りになる相談役としておりましたゆえ、お悲しみ様は相当なものでございました。
諸々の法要も終わり、その後は殿の御言葉に甘えて子等と共に本当に平和な日々を送っておりました。
しかしその僅かに三月後、天下を騒然とさせる出来事が起こり、平穏な日々は突如として終わりを迎えたのでした。
「殿ーー!!
一大事、一大事にございまするーーー!!!」
その日は政の合間の殿と二人でまんの手習いをしておりました。
そこに、大慌てで若い家臣が飛び込んで来たのでございます。
「何事ぞ!?」
「太閤殿下御薨去、太閤殿下がお亡くなりになりましてございます!!」
以前より太閤殿下のご容態が芳しくないとの噂はごさいましたが、まさかお亡くなりになっただなんて…。
「なんじゃと!?」
私も驚いて声も出ませんが、殿も驚きを隠せないご様子でございます。
「先ほど大坂より知らせが参りました。
殿におかれましては急ぎ御上洛を!」
「あいわかった。
小松、暫く留守を任せる。」
「かしこまりましてございます。
道中、お気をつけくださいませ。」
慌ただしく上洛の支度をし、殿は翌日には馬で京に向かわれました。