踏切の向こう側
‘夢には自分の希望が映し出される’なんてよく言うけれど、僕はそんなこと、望んでいない。



その夢に僕の希望なんかひとつもない。



なのになぜかその夢が頭から離れなかった。



僕はさっさと服を着替えると、リュックに教科書やノートを入れて、それを背負い、階段を降りた。



十畳ほどのリビングには、小さなテレビがあり、その周りにソファやダイニングテーブルがある。



テーブルの上には手書きのメモがあり、

“今日は帰れそうにないのでご飯代です”


と丁寧に書かれている。


しかしそれは一週間ほど前に書かれたもので、紙の上に添えられた白い封筒には

‘ご飯代’が、万札で六、七十枚入っている。



僕の親は、逃げた。


現実から、僕から。



きっとどこかで死んでいるのだろう。


そんなことに僕は、悲しみなど感じない。



いつかは捨てられる、わかっていたから、そんな現実から目を背けずにいられた。
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