約束
 父親は昨日、木原君の家に行ったということになる。

 よく考えるとうらやましい。彼がどんな家に住んで、どんな生活を送っているかをほんのわずかでものぞくことができるということだから。学校で遠くから見るだけで満足だと思っていた私には遠い世界の話だった。

「今日、家に帰って断ろうと思っていたけど、君のお父さんから家に来てくれって家に電話があったらしくて。俺のお父さんは押しに弱くて」

「分かるよ。私のお父さんだから」


 木原君のお父さんがというより、私のお父さんの押しが強すぎるのだ。

「家のことは断るから心配しないで」

 木原くんはそう言うと、笑顔を浮かべていた。

 心配という言葉が引っかかるが、まず理由をきいてみることにした。

「どうして、そんな話になったの?」

 私はそこまで言って、彼の言葉を制す。階段の途中で立ち話をしていることに今更ながら気づいたからだ。

 まずは腰をすえて話をすべきかもしれない。それにお茶もまだ出していないのだ。


「部屋で話をしようか。お茶でも持ってくるよ」

 私は階段を上り終えると、少し細い廊下を歩き、そこから三つ先にあるドアの前に行く。その一つ手間が私の部屋だった。
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