約束
「父親が転勤になったけど、父親は家事が全くダメな人だから母親がついていくことになったんだ」

「転勤って、木原くんも転校するの?」


 彼の言葉を遮り、思わず問いかけていた。自分で口にしたのに胸の奥が疼くように痛い。

 中学生くらいなら親について行くだろうけど、高校生くらいだとどうなんだろう。学校に寮はないから、一人暮らしか、知り合いの家に住むくらいしか選択肢はない。私の知り合いに親が転勤になり一人暮らしをしている子もいるので、不可能ではないだろう。


「一応、地元の大学行きたいから残りたいけど、迷っているところ。家は一軒家の借家だから、引き払わないといけないからね」

 それなら今の家に残るというのは難しいのかもしれない。

 木原君が転校するなんて、今までそんなこと考えたことなかった。少なくとも高校卒業までは彼を遠くから見ることができると思っていたからだ。

 だから突然のように出てきたこの家に住むという話。ここに住めば、彼は引っ越さなくてもいいし、学校で姿を見続けることができる。

だが、学校以外でも彼を見ることができるということに、あまり実感がなかった。

でも、それ以前に彼とこうして話をしているだけでも、私にとっては夢物語のようなものかもしれない。
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